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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)7141号 判決 1964年5月15日

原告 黒沢喜三郎

被告 社団法人 日本公認会計士協会

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、請求の趣旨

被告協会の昭和三八年六月二一日付総会における左の決議が無効であることを確認する。

「普通会費として、正会員は月額一〇〇〇円を一五〇〇円、客員は月額五〇〇円を七五〇円、準会員は月額三〇〇円を四五〇円とする。」

二、請求の原因及びその認否

1、被告協会は社団法人であり、原告はその会員である。(認)

2、請求の趣旨記載の決議がなされた。(認)

3、右決議は、被告協会の定款に違反しているため、無効である。(争)(理由事実)(一)右決議は、会費規則を変更するものであるが、定款第六条は、総会出席会員の三分の二以上の同意を得なければ、規則の変更はできない旨を定めている。(認)(二)本件総会出席会員数は一〇二六名であるが(認)、右決議に賛成した者は三二六名でその三分の二以上ではない。(争)

証拠<省略>

理由

請求原因第3項中、本件決議の賛成者が三二六名であつたことを認めることができない。定款第三六条は、会員は委任状により議決権を行使するときは、委任状に「議題毎にその賛否を表明しなければならない」と定めていること、本件総会の委任状による出席者数は九七八名であり、そのうち賛否を表明した者は、五三〇名(賛成二九〇名、反対二四〇名)で、他の四四八名は賛否を表明しなかつたこと、しかし、右四四八名は賛否について白紙委任する旨を委任状中において述べていたため、賛成として議決数に加えられ、本件決議が可決されたこと、については当事者間に争いがない。そこで、争点は、定款第三六条の規定に拘らず、白紙委任をすることができるか否かの一点のみである。当裁判所は、一般論としては、定款に前記のような文言の規定がある場合でも、有効に白紙委任をすることができ、従つて委任を受けた代理人は自由に賛否を表明することができるものと解する。もつとも、各社団法人は、自己の定款上の諸規定を、合理的な範囲を超えない限り、自由に解釈運用することができるものと云うべきであるから、前記の規定がある場合、当該社団法人内部において、特別の事情、例えば、白紙委任は無効として出席者数乃至議決数に算入しないとか又は棄権とみなす等の慣行が確立しているときは、右の一般論はあてはまらないものといわねばならない。しかし、本件においては、全証拠によつても、被告協会内部において右の一般論をくつがえすに足りるような特別の事情のあることを認めることはできない。

なお、訴訟費用の負担について民訴法第八九条適用。

(裁判官 服部高顕 武藤春光 宍戸達徳)

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